本年6月15日に施行される住宅宿泊事業法に先立ち、今日3月15日から事前届出の受付が始まった。「住宅宿泊事業」とは聞き慣れない言葉であるが、それが「民泊」と同義であると聞けば通りが早いかもしれない。（記事本文と写真は関係ありません）
日本政府が主導するインバウンド政策の後押しを受け、近年急速に増えている訪日外国人旅行者。日本政府観光局（JNTO）の推計によると、2010年以降は東日本大震災のあった2011年で一時落ち込んだものの、2012年には840万人／年に回復。その後も毎年19〜47%の増加を示し、2017年には2869万1000人と統計開始以来の最高記録を更新した。今後も現在ビザが必要な国々の発給条件緩和を加速させるなどして、東京オリンピックが開催される2020年には4000万人、2030年には6000万人まで増加させることを目標としている。その担い手となるべく、港区内でも各所で新規にホテルの建設が進められ、次々と開業し始めているが、大規模な工事となるホテルの事業は急に始められるものではない。そこで、にわかに注目を集めているのが「民泊」だ。
一般的に民泊と呼ばれる住宅宿泊事業は、「旅館業法に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業」を指し、旅館やホテルに比べ必要とされる設備の基準等が緩く、既存の住宅を利用できるため開業のハードルが低い。また、airbnbや民泊物件.com
などのウェブサイトを通じて貸したい人と借りたい人をつなげる事業が広まったことも普及を加速させており、流暢な日本語を操る米国人女性のCMで話題となった宿泊料金比較サイトの大手トリバゴでも民泊物件の取扱いを始めている。
東京都福祉保健局の「福祉・衛生統計年報（平成２７年度）」によると、平成２８年３月３１日現在の港区の宿泊室数は、ホテル19,649室・旅館5,641 室だ。都内自治体中最多であり、2番目に多い新宿区でもホテル8,359室・旅館9,469室と大差をつけている。確かに港区には新幹線が発着する品川駅があり、羽田空港へのアクセスも良い。竹芝および日の出桟橋には伊豆諸島や湾岸エリアを巡る航路の起点もあり、国内外の他の地域への拠点として利便性が高い。もちろん区内においても高級ブランドの建ち並ぶ青山でのショッピング、増上寺や泉岳寺、東京タワーや台場のような新旧の観光名所、品川や虎ノ門、六本木には大規模なビジネス拠点があるなど多種多様な目的に応えており、その受け皿として品川や新橋には多数の大型ホテルがある。麻布地区においては、六本木と麻布十番、西麻布といった都市計画法における商業系地域がその役を担っているが、それ以外の町域は幹線の沿線を除いて住居系地域であるため、元々ホテル・旅館は建てられないか規模の制限が掛けられているエリアが大部分を占めている。
ところが、民泊自体が住宅の使用していない部分や期間を貸し出す制度であることから、住居系地域における活用も当然ながら前提とされているため、麻布地区も人ごとではいられない。住宅宿泊事業法において「都道府県知事等への届出」「年間提供日数の上限は180日（泊）」などといった制限はあるものの、細かい決まりは地域の特性を鑑みて、各自治体によって定められる条例により制限が加えられることとなっている。これを受けて港区は、「港区住宅宿泊事業の適正な運営の確保に関する条例」を制定し、家主不在型住宅宿泊事業に対し、「実施を制限する区域」「実施を制限する期間」を定めた。
区のウェブサイトによると「家主不在型住宅宿泊事業の実施を制限する区域」は、次の区域。
・都市計画法第8条第1項第1号に規定する第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域及び第二種中高層住居専用地域
・東京都文教地区建築条例に規定する文教地区
「制限区域において、家主不在型住宅宿泊事業の実施を制限する期間」は、次の期間。
・1月11日正午から3月20日正午
・4月11日正午から7月10日正午
・9月1日正午から12月20日正午
わかりやすいイメージとしては「制限区域内の家主不在型の民泊は、年末年始と春休みならびに夏休みの間のみ民泊の営業が認められる。制限区域内であっても家主居住型民泊の場合は、制限区域外と同様に条例の制限なく、住宅宿泊事業法に定められる範囲内（上限180日）で営業可能」といったところだ。
その他の設備に関わる細則もあり、また制限内容も今後の運用状況によって変更される可能性もあるため、民泊事業への参加は、港区など関係機関に詳細を確認の上、適正な手続きを経て参加を検討されたい。
Be First to Comment