その異変は、ある日突然編集部に訪れた。キッチン用水栓のハンドル部分から、漏水が止まらないのだ。「来るべきときが来た」と誰もが思った。実のところ、その予兆は3年ほど前からあったからだ。
設置後既に10年程度経過したその水栓は、ドイツのkludi社のシングルレバーで操作する混合栓。ネット上からサルベージした古いカタログに掲載されていた写真から、同定したのは「KLUDI STEEL 101 」。シャワーホースが伸びるタイプであるため、シンクの隅々まで洗い流せるのが良い。最初の異変は、給水側でハンドルを留めると、ハンドルと本体の隙間からポタポタと漏水があるという程度ものだった。しかも給湯側にハンドルを動かせば止まる。一安心して忘れた振りをしていたのだが、給水側にハンドルを持って行くと、日に日ににその漏水の量も増えていることに編集部の誰もが気がついてはいた。その内に止まらなくなるのではと懸念されたが、スイートスポットにハンドルを保持する事で漏水を止められるという、無駄なスキルを会得した者が現れ、その知見を共有することで延命を続けていたのである。
だが、その手段もいよいよここまで。給湯側にハンドルを保持しても、スイートスポットをいくら探しても、ツーっと糸を引いたように水が流れ続ける。
水道工事業者さんを呼ぶしかない状況だが、こういうことは得てしてタイミングが悪い時に起こるもの。丁度年始で業者の手が空いていない時なのだ。ならば、肚をくくって社内で修理してみせよう!生活面DIY班の出番だ。
※この記事はDIYを勧めるものではありません。給水設備の工事は専門知識を必要とするため、思わぬ事故を起こすことがありますので、専門業者にご依頼ください。
こういう場合、一刻も早く作業に取りかかりたい気持ちになるが、慌ててはいけない。工具や部品が揃っていない状態で慣れない作業をすると、取り返しのつかないことになりかねないから。だが、漏水の原因も判らなければ、何をどう修理すべきかも不明だ。そこでまずは慎重に分解して、構造を理解することとする。つまり、やおら作業に取りかかったのだ。
最初に水栓の為の水栓とも言うべき、止水栓あるいは元栓を締める必要がある。それをせず、おもむろに水栓そのものを分解しようとすると、ナシ汁いや東京水ブシャーだ。
シンク下に潜り、止水栓を止めて水栓を分解する。
まずは漏水箇所に近いハンドルをはずす。どうやって?水とお湯を示す青と赤が半々に色分けされたポッチを外すと、その穴の奥にハンドルを固定している六角穴付止めねじがあった。サイズは物によって異なるだろうが、この場合は2.5mmの六角レンチがピッタリだ。手元に無ければ、三田のケイヨーD2にGO。
首尾よくねじが取れたら、あとは引っ張るだけ。そうすれば、スッと取れ、、、ない?そう、取れないこともある。なにしろ10年も経過しているのだ。汚れなどで固着していても不思議ではない。これが自転車などであればシリコンスプレーを一噴きお見舞いするところだが、相手は水栓。口に入るものが出てくるところであるため、慎重にいきたい。そこでおもむろに掛けたのはお湯、hot waterである。
汚れが溶けたためか、金属が膨張したからかは不明だが、なんとかズリッとした感触と共に外す事が出来た。すると、ピコピコと上下させることが出来る10mm角程度の棒が現れる。これが湯と水をコントロールしている心臓部、その名も「カートリッジ」の操作部だ。 プラスチック製ゆえ、無理にひねったり引っこ抜いたりすれば、折れてしまうだろう。そうなると交換用部品も無い状態で、ますます漏水がひどくなることが十分に考えられる。
幸運に安堵しつつ作業を進めるが、まだカートリッジの全容を見ることはできない。そこには緩やかなカーブを帯びた留金がある。これにはビスがついていないようなので、軽く握って回して外す。外してみて気がついたのだが、これはプラスチックにメッキがしてある部品だ。外観からは、金属部との差は感じられないが。
次に見えるのは、象牙色をした樹脂のリング。これはやや固い。水栓用のプライヤー「ウォーターポンププライヤー」が必要だ。なければ、再び三田のケイヨーD2にGO。専用の工具を用いれば、なんて事はない。くるりと回り、外れるはずだ。
これで、いよいよ「カートリッジ」の全貌が現れた。
直径約35mm、高さ約50mm程度の小さな部品だ。円筒状の底に2つのポッチがあり、それを本体側の穴に合わせて嵌められている。そのことで水とお湯の供給部と、カートリッジ側のそれぞれの穴が自然と合うようになっている。カートリッジ自体を観察すると、プラスチックで出来た筐体に、セラミック製の部品が納まっているようだ。プラスチックの棒を上下することで、水またはお湯の量を調節し、棒をひねることで水とお湯の割合をコントロールする仕組みだ。こんな簡易な構造の物で液体を止めているとは!
各部の寸法をメモして元に戻し、この部品の入手方法を探る。3年ほど前に初めて異変があった時にkludiの代理店に問い合わせたところ、確か1万円近い金額だった。もしかすると今なら代替品が買えるかもしれない。淡い期待を持って探してみると、amazonなどで国産や中国産の似た製品が1000円前後の値段で散見される。概ね直径35mmか40mmというのが規格のようだが、高さの情報に乏しい。どうも純正品よりもサイズ的に高さがあるようだ。だが、純正品を素直に購入すると1万円は要する。専門業者に修理自体を依頼すれば1.5万円〜2万円は掛かるだろう。1000円弱の出費で試せるのなら安いもの。製品を1つ発注した。
そして、待つこと数日。届いたのはこちら。
純正品を取り出して比べてみよう。既に一度経験した手順であるため、作業は実にスムーズ。ハンドルを外し、カーブのついたメッキのプラスチック部品を外し、ウォーターポンププライヤーで象牙色のパーツを外せばカートリッジを取り出せる。
純正品がモノトーンのシックな色合いであるのに対して、中国製は鮮やかなブルー。そして、純正品のレバー部がスカスカ動くのに比べ、中国製の代替品はヌルっとした感触だ。これはグリスの違いだろう。純正品も当初はこのようにヌルっと動いていたものと思われるが、長い年月使用するうちにグリス切れとなったのだろう。ならば、グリスを買って塗れば良かったのではないかと思ったが、グリス自体も3gで1000円程度とカートリッジ自体と変わらぬ価格である。それはまた別の機会にでも試すこととして、早速届いたばかりの代替品を装着し、取り出したのと逆の手順で作業を進める。
が、やはり純正品との高さの違いが仇となる。象牙色のパーツが奥までねじ込めずに浮いている。もちろんそこに付けるメッキ仕上のプラスチック部品も浮いて、ハンドルと本体の間に象牙色のパーツが見えてしまっている。無念。。。
だが、恐る恐る止水栓を開けて通水してみると、漏水自体はピタリと止まっている。見た目は残念だが、誠実に仕事をしていることをまずは評価しよう。
ひとまず漏水を止めるという目的は達成したが、見えないはずの部分が見えており、どうにも見栄えが悪い。あきらめきれず海外からの輸入も視野に入れ、ネット上を改めて探していると、やはり本場ドイツのAmazonやアメリカのebayなどに純正品が出品されている。その中で最も安価な物は、送料を含めても3000円弱。案外安い。ならば試してみようとポチリ。到着予定は10日から18日後。届くまでしばしお待ちを。
※この記事はDIYを勧めるものではありません。給水設備の工事は専門知識を必要とするため、思わぬ事故を起こすことがありますので、専門業者にご依頼ください。
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